Interviews

What's Up Now, Swing Journal Nov. 2008 (Japan)

このCDが食品だったら偽装表示疑惑で問題になるのではないかと少々危惧しています。

(インタビューと文:中山智広)

98年からニューヨークで活動するピアニスト百々徹。スタイルが出尽くした感のあるジャズピアノ界にあって、数少ない『顕著なオリジナリティ」を持ち、かつ『ジャズピアノの王道』を行く彼は、僕が思うに日本人期待の星である。4枚目に当たる新作『Do You Like Cappuccino?』は自己レーベル『Do &Do』を立ち上げて、自らのプロデュースでの発表だが、そのあたりの意気込みから訊いてみた。

「レーベル名の由来は私の名字と音符のドとドの間に無限の音楽がある、という意味です。この作品を録音するにあたって、自分の音楽は自分が一番よくわかっているという思い上がりを、どれだけ封じ込めて、客観的な耳を持って、仕上げていけるかという挑戦がありました。』また洒脱なタイトルは「コーヒーチェーン『ドトール』と私の名前(ドドトール)が似ているという事だけを根拠に、タイアップができないものかと書いた曲です。それはまぁさておき、アルバムジャケットのデザインと合わせて、とても”くだけた”印象を与えていると思います。しかし、アルバム全体を訊いていただくと、けっこう”くだけていない”感想を与えるかもしれません。このCDが食品だったら偽装表示疑惑で問題になるのではないかと少々危惧しています。」などと、「真面目なユーモリスト」である彼らしい解説。実際タイトル曲はとてもお洒落なボッサ(まさにカフェ向き!)だが、アルバム内容は、軽い気持ちでカプチーノに手を伸ばしたが、気がついたら、前菜からパスタ、メインディッシュ、ドルチェまでついたフルコースのディナーを食べてしまった、といった内容で、実にバラエティに富み聴き応えがある。

「今までも百々徹の音楽をやってきたつもりですが、今回さらに百々徹の音楽になってきたのではないでしょうか。これまでは、そうはいってもアフロアメリカンが始めた音楽のスタイルに、愛しているが故に強く囚われすぎていたように思います。そういうものから、すこしづつ解放されてきた過程がこの新作により強く反映されてきていると思います」という彼の言葉には、自信の程がうかがえる。そして「もし僕の音楽を聴いて、訊く前に比べたら、少し気分がよくなったりしてくれたら、それだけで嬉しいです」というあたりは、やはり謙虚な彼らしくもある。こんな愛すべき人間の音楽を、聴きたくならない人はいないのではないだろうか?11月の来日公演も楽しみだ。Do You Like Dodo?